大井川の心霊が優しい労りの空気感で迎えてくれる島田市の大井神社~素敵なシーンウォッチング124

子供の頃から親しんできた神社の存在。境内でかくれんぼや鬼ごっこなどして遊んだ思い出、初詣や厄払いなど、日本人の誰もが神社に親しみを持っています。

全国におよそ8万8,000社以上存在し、仏教系寺院よりも数が多く、日本で最も多い宗教的文化建築物が神社です。その中で神職者が常駐している神社は2万社程度、宮司(神職の最高位)の数は1.1万人とも言われています。因みに全国にあるコンビニの数が約57,000店舗ほどなので、神社はコンビニの数を圧倒的に超えています。

ではなぜ人は太古から神社に行くのでしょうか?その理由は、‟良い気”と出会うためです。

日本人は自然を愛し大切にしてきました。そして神を崇拝し、生活の数々の場面でその恵みに感謝する風習がありました。その様な風習の中から生まれた信仰が、自然崇拝を軸とする‟神道”です。人々は山や巨岩、大木を神の座と崇め周囲の森を”神聖なる場所”としました。やがてそれが神社になったのです。神社ありきでなく、神様がいるところに神社を建てたのです。そして長い年月をかけて、神社は人々が集うコミュニティーとなっていったのです。

前置きが長く成りましたが、今回の素敵なシーンは、太古からの‟つどい”がそこはかとなく感じられる、やわらかでたおやかな空気が流れる静岡県島田市大井町にある大井神社(おおいじんじゃ)です。

大井神社は大井川の神霊を祀る神社で、3年に1度行う島田大祭(帯祭り)で知られ、祭神は弥都波能売神(みづはのめのかみ)水の神、波邇夜須比売神(はにやすひめのかみ)土の神、天照皇大神(あまてらすすめおおみかみ)日の神の3柱です。文献上で‟大井神”と見られるように、大井川の神格化が始まりとされています。上記の人格神3神はいずれも後世に祭神とされたものですが、特に水神である弥都波能売神に大井川の神格化の名残りが指摘されています。

現在は神社の格付けはされていませんが、国史見在社(こくしげんざいしゃ:六国史に記載のある神社のことで格式高い神社)であり、後世になって特別視されました。旧社格は県社で、現在は神社本庁の別表神社とされています。

さて、人はどういう時に神社参拝に行くのでしょうか?初詣に始まり、安産祈願、初宮参り、七五三、学業成就、成人報告、厄払い、結婚、恋愛成就、病気平癒、困ったときの神頼みなど見てみると、人生の通過儀礼(人が誕生してから一生を終えるまでに迎える成人、就職、結婚、長寿、そして死去までのそれぞれのステップで行う儀式や儀礼、行事のこと)になっていることがわかります。実はこの大井神社、三柱の御祭神共に女神様で、昔から安産の神、女性や子どもの守護神として幅広く信仰されているのです。また、生命生産の神、お清めの神・お祓いの神、そして江戸時代参勤交代の大名や、飛脚が旅の安全を祈願したことから、旅行安全、交通安全の神として篤い信仰を寄せられています。

天下を取る為や戦いの神ではなく、庶民が願う幸せを叶えてくれる神様が日々の生活を見守るように存在する場所が、この大井神社なのです。

実はこの大井神社、建立されてから今まで幾度となく所在地を変えています。創建は不詳なのですが、三代実録巻11(にほんさんだいじつろく:日本の平安時代に編纂された歴史書)に貞観7年(じょうがん)(西暦865年)‟授駿河国正六位上大井神社従五位下”(駿河国するがのくに正六位上しょうろくいじょう大井神社おおいじんじゃに従五位下じゅごいげを授く)との記載があります。

元は大井川上流の現・静岡県川根本町に鎮座していたのですが、大井川の度々の洪水によって社殿が流され神社の位置が変わり、慶長9年(西暦1604年)7月の大洪水で、島田の街と共に大井神社は現在の元島田の野田山(のだやま)へ移されます。その後、大井神社より上流(大井川寄り)に民家が広がり、自分たちの生活汚水が氏神様である大井神社の方へ流れるのは申し訳ないという氏子からの請願により、元禄2年(1689年)現在の御社地・島田市で祀られるようになったと言います。現在の鎮座地は、近世東海道(県道34号線)に面しており、島田宿の鎮守ともされていたようで、江戸時代には‟大井大明神”と称されましたが、明治41年には県社に列せられたという歴史があります。

由緒正しき神社であっても、自然災害によってやむなく遷宮(せんぐう:神の依代〈よりしろ〉である神社を立て替え修理する際に新しい神殿を造って御神体を移す一連の儀式)しなければならない生い立ちを持つ大井神社。建立された時の姿は想像も及びませんが、今、この島田に鎮座する大井神社は、いつの世にも人々に愛され敬われた故に、様々な困難を乗り越えて存在し続けているのです。

今回の素敵なシーンは、悠久の時を超えて地元の人々を守り続ける大井川の神霊を祀る神社‟大井神社”の存在です。

居るだけで気持ちがアップする、たおやかな空気感が漂う境内
大井川の度重なる洪水で社殿が流され、元禄2年(1689年)現在の御社地・島田市で祀られるようになったと言います
安産の神、女性や子どもの守護神として幅広く信仰されていて、3年に1度行う島田大祭(帯祭り)が行われます
6月1日から8月31日まで風鈴の奉納が行われています
願い事が書れた短冊がなびき、回廊に風鈴の音が涼しさを告げます
大井神社には大井天満宮が祀られていることから、天満宮の神使とされいてる牛が祀られています
天満宮の神使、牛は、参拝者に撫でられ黒光りしています
水の神、土の神、日の神が祀られる境内
大井神社の水信仰の化身、双龍の手水
建立された地の神、大井川の神霊を祭る大井神社