住宅地に突如として現れる時空を超えた神聖なる空間・駒門風穴~素敵なシーンウォッチング116

これまで‟穴があったら入りたい”と事あるごとに失敗を繰り返してきた影響か、気が付くといつのまにか穴と聞いただけで身体が反応する体質になってしまったシーンウォッチャーズですが、人生を振り返ると冷たい風が心の中を吹き抜ける‟風穴”までも開いていることに気が付いたのでした!そんなシーンウォッチャーズに相応しい今回の素敵なシーンは、1922年(大正11年)に国の天然記念物に指定された、取材上、最も大きな風穴、駒門風穴(こまかどかざあな)です。

これまで竜ヶ岩洞(りゅうがしどう)、鷲沢風穴(わしざわふうけつ)と静岡の洞穴探検は経験済みでしたが、ここ駒門風穴の迫力は段違いです!

駒門風穴は、富士の樹海、青木ヶ原にある富岳風穴(ふがくふうけつ)や鳴沢氷穴(なるさわひょうけつ)のような、当初想像していた山の中でなく、ごく普通の住宅地の中を進んで行くと突如として現れます。こんなところに巨大風穴があるのかな?と思うくらい周りから気配は感じられませんが、入口の鳥居を入ると受付がありそこから空気が少し変化します。パワースポットと言われる気配が鳥居の奥から流れて来ているようです。

樹木で覆われた小規模の神社の様な駒門風穴。富士山麓で一番大きい洞穴で入口も横幅が約数メートルあり、これまで体験した洞穴とは一線を画す規模ですが、洞窟入り口から見る限りはそんなに奥がありそうな気配はありません。しかし、いざ洞窟の中に入ってみると天井まで20メートルもある広々としたホール状の巨大な空間が目の前に広がり、異空間が一瞬にして広がります。光が遮られた空間に目を凝らすと、ずっと奥まで洞口が延びていて、地上と違う暗闇に足元の悪さも加わり不安な気持ちが湧き上がってきます。しかし洞窟内は動線を指示するように手すりや説明の看板も所々にあり、最低限の照明が付けられているので、しばらくすると暗さにも馴れて冒険心が湧いてくるのです。

約1万年前、富士山の爆発とともに三島溶岩流(粘り気の少ない玄武岩溶岩)によってできた溶岩洞窟(ようがんどうくつ)は、総延長約400メートルと規模も富士山麓では最大級でかつ国内で原型を保持しているものとしてはかなり古く貴重なもので、全長は本穴が244m、枝穴が105m。見学可能な範囲は本穴が入口から約160mまで、枝穴は本穴との分岐点から約45mまでの間となっています。

本穴・枝穴のそれぞれの行き止まり地点には、とても珍しい模様の溶岩があります。冷え固まるときに壁面を流れ下った‟肋骨状溶岩(ろっこつじょうようがん)”や天井から垂れ下がった‟溶岩鍾乳石(ようがんしょうにゅうせき)”、床面に縄状や波状のしわがよった縄状溶岩(なわじょうようがん)など珍しい形状のものが見られます。

探検気分がどんどん盛り上がり、奥に進んで行くと餅の形状をしている“餅型状溶岩(もちがたじょうようがん)”やコウモリが棲んでいた‟コウモリ座敷”の跡などもあり、見どころがいっぱい。普通ではなかなか見られない、例えるなら‟地球の創成期”の様な原始の始まりの世界が広がっています。

さて、洞窟の暗闇に馴染んでくると周りが良く見える様になってきます。しかし油断してはいけません。枝穴を探検する際の注意点としては、地面から天井までの高さが1メートルぐらいしかない場所があります。ヘルメット無しで、腰をかがめて洞窟の奥に入って行くのはかなり神経を使います。取材日は蒸し暑さがある雨上がりのうす曇りの天候でしたが、洞窟内は年間を通じて13℃と一定で、夏は涼しく、冬は暖かいので見学にも最適なのですが、雨水が天井から落ちてくるのでウィンドブレイカーを持参することをお勧めします。また洞窟全体は鍾乳洞とは違い、漆黒の世界が広がっています。照明は地面の下部に設置されているため、洞窟の上部、照明のない中央部などはよく見えません。洞窟内をじっくり観察したい方は、懐中電灯を持って行くこともおすすめします。

本穴と枝穴が分岐する辺りの‟神棚”と呼ばれる場所では、溶岩のすき間から昭和初期に直径約11cmの青銅協(せいどうきょう)が発見されています。また御殿場地方は、近代から現代にかけて養蚕が盛んでした。富士山北麓(ほくろく)もそうですが、溶岩洞窟内の冷涼な環境を活かして、かつては蚕紙(さんし:蚕の卵を産みつけた紙)を保存したそうです。また内部には、コウモリの他、目が退化した昆虫(洞穴生物:どうけつせいぶつ)と呼ばれる希少な生物が棲息しています。

約30分の洞窟探検でしたが、穴の中にいる間考えていたことは、古代の人はこの洞窟で何をし、何を考えていたのか?ということでしたが、答えは駒門風穴入口の脇にありました。富士山信仰の木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)を祀る子安神社(こやすじんじゃ)のほか、志那津比古神(しなつひこのかみ)と志那津比売命(しなつひめのみこと)を祀る風神社(かぜじんじゃ)、大気都比売神(おおげつひめのかみ)を祀る蚕養神社(こがいじんじゃ)の3つの祠(ほこら)です。安産、五穀豊穣、風・水・火の鎮めにご利益があるとされているそうで、古代から神聖な場所として祀られていたのです。

今回の素敵なシーンは、古代から受け継がれた‟神聖なる空間・駒門風穴”です。

所在地 静岡県 御殿場市 駒門69

営業時間9時~17時(3月~11月)

定休日/休業日 無休(但し12月~2月は月曜日定休)

https://hellonavi.jp/detail/page/detail/1550

古代から受け継がれた聖なる空間‟駒門風穴”
富士の樹海ではなく、住宅地に突如として現れる‟駒門風穴”
何気ない入口の奥には鳥居があり、その奥に風穴があります
洞窟の入口を降りると想像を超える広大な空間が待っていました
洞口はかなり奥まで延びていて、地上と違う暗闇に不安な気持ちが湧き上がってきます
春雨橋など、各所に名前がつけられています
映画「グーニーズ」の様な、かなりハードな形状の洞穴です
地面から天井までの高さが1メートルぐらいしかない場所があります
波が湯せている様な形状をした、足元にある波状紋
人体の肋骨の様な形状をした‟肋骨状溶岩”
洞窟内部から見た駒門風穴の入口
子安神社、風神社、蚕養神社
富士山麓では最大級でかつ国内で原型を保持しているものとしてはかなり古い貴重な風穴