熱海の温泉を守り続けてきた守護神が祀られる湯前神社~素敵なシーンウォッチング112
温泉とは、ある人は‟温まって疲れを取る社交場”と言い、またある人は‟究極の癒しの場”だと言います。また、冬場に日本を訪れたハワイアンのツーリストは、‟フォーリンラブ”と温泉に浸かって思わず声が出たそうです。
本題に入る前に温泉の種類について少し説明させていただきますと、環境省が定義する
‟温泉法”によれば、湧出口(ゆうしゅつぐち:源泉)での泉温によって4つの種類に分類されています。温度の低い方から、水温が25℃未満の冷鉱泉(れいこうせん)。次に25~34℃未満の低温泉。そして34~42℃未満の温泉。最後に42℃以上の高温泉です。温泉地の大浴場ではほとんどの場合42℃前後に温度設定されているため、多くの人が温泉としてイメージするのは温泉または高温泉ではないでしょうか。実際には、「冷鉱泉」「低温泉」が源泉である温泉地もありますが、入浴で最も気持ちよく感じる温度は42℃と言われているため、ほとんどの場合は加熱しなければなりません。また、温泉の温度が高ければ高いほど、含まれる効能成分も増える傾向にあります。
熱海地区にある温泉の泉質は塩化物泉(えんかぶつせん)と硫酸塩泉(りゅうさんえんせん)が約9割を占めており、熱海温泉の源泉数は503カ所、伊豆山、網代(あじろ)を合わせると600本以上もあります。湧出温度98.2度の高温泉で、1日の総湧出量(そうゆうしゅつりょう)が全体で約24,000トンと圧倒的な湯量を誇る温泉なのです。
熱海取材第3弾、今回の素敵なシーンは、日本三大温泉といわれる屈指の温泉地である熱海の神髄、湯前神社(ゆぜんじんじゃ)にフォーカスしました。
湯前神社ですが、名前の如く、湯、すなわち‟熱海温泉”の原点となった、源泉を祀った神社です。温泉マニアの方以外、源泉に興味が湧くとはあまり聞いたことはないのですが、ここ熱海は温泉があるからこそ街の発展があった土地で、その温泉の源泉に対して感謝の下に築かれた神社が湯前神社なのです。それ故、神社の囲いに使われている玉垣(たまがき:神社・神域の周囲にめぐらされる垣のことで、瑞垣:みずがきともいう)には旅館やホテルの名前(今は亡き旅館やホテルの名もあり)が刻まれ、寄進札板(きしんぶだいた)の石碑には多数の寄進者の名が連ねられています。
社伝によると、創建時期は天平勝宝元年(てんぴょうしょうほう:749年)、小児(しょうじ)に神託が下り、「諸病を除く効果があるので温泉を汲み取って浴せよ」との神教(しんきょう)があり、その報恩(ほうおん:自分自身が受けた恩に報いること)として里人(りじん:村人)が祠を建てて少彦名神(すくなひこのみこと)を祀ったのに創まると記述されています。また天平宝字年中(てんぴょうほうじねんちゅう:757年~765年)に箱根山の金剛王院(こんごうおういん:廃寺)に住した万巻上人(まんがんじょうにん)が、熱海の海中に温泉が湧いて、その熱湯のために多くの魚介類が死んでいたのを哀れみ、海浜に祈祷の壇を築いて100日間の勤行(ごんぎょう)に励むと、満願の日に内陸部へと湯脈が移ったので、その傍らに‟湯前権現”(ゆぜんごんげん)と称して温泉の守護神として祀るようになったともいう説もあります。
平安時代より一般庶民の入浴者のみならず、公家、将軍家、大名などにも“湯治の神”と篤く崇敬されてきた存在であり、熱海の温泉を守っています。毎年春と秋には、温泉に感謝し、泉脈が絶えないようにと例大祭が開催されます。
さて、熱海温泉と言いますと熱海市全体の温泉地を指しているかの様に思われがちですが、実は各地区の温泉があり、それぞれに名前、泉質も違うのです。熱海温泉は、熱海駅の北東から南東にかけての温泉地を指し、昔からの温泉街が駅周辺から海岸沿いまで広がり、多くの旅館やホテルは海沿いに立ち並んでいて眺望が楽しめます。そして、熱海の南隣にあることから別名‟南熱海温泉”と呼ばれる網代温泉があります。熱海の秘湯で、新鮮な海の幸と良質の温泉を楽しめることから温泉通に支持されています。その他、万葉時代に発見された洞窟の中から源泉が湧出する‟走り湯”が名物な伊豆山温泉、湯河原温泉に隣接する伊豆湯河原温泉などがあり、海と山の幸が楽しめ、海水浴やハイキングも出来る熱海一帯にある温泉帯は、それぞれに個性ある温泉なのです。
ティーンエイジャーからお年寄りまで、またデイトや食べ歩き、観光なども楽しめるダイバシティな魅力に溢れた唯一無二の温泉リゾート地である熱海の温泉たち。今回の素敵なシーンは、湯を守り続け温泉の恩恵を後世に伝える象徴的存在、湯前神社です。