見る者に語り掛けてくる神秘の力を持つ‟蓮の花”~素敵なシーン・ウォッチングFIEL75

可憐な花といえば、すみれやコスモス、ヒナゲシなど、風が吹けばなびく様な花が浮かびますが、短い時間しか花を咲かせない草花も可憐な花と言えるかもしれません。今回、シーン・ウォッチャーが注目したのは、早朝の数時間だけ花が咲き、3日ほどで散ってしまう蓮の花です。

 蓮は、6月下旬から8月に咲くハス科の植物で、上品な香りを持ち大輪を咲かせます。今回取材させてもらったのは藤枝市蓮華寺池公園の蓮たちで、周囲約1.5キロの広々とした池の半分以上を埋め尽くして咲いていました。

極楽浄土には蓮がたくさん咲いていると信じられています。仏様の座っている台座の花も蓮をモチーフにしていて、仏教用語では台座のことを蓮華座と呼ぶそうです。

とても私的なことで申し訳ないのですが、蓮を意識したのは漫画「サーキットの狼」で主人公の愛車として、スーパーカーブームの火付け役にもなった1966年から1975年まで販売されたイギリス車、ロータス・ヨーロッパのロータスという言葉が気になって調べたことからです。ロータスは蓮の英語名で、サンタナが1974年に発表したバンド名義では初のライブ・アルバム「ロータスの伝説」(原題:Lotus)にも使われています。

 なぜ彼らは蓮の花を自身のアイコンとして選んだのでしょうか?蓮については様々な伝説や言い伝えがありますが、この花に関する話の中で一番印象深かったのが「蓮は泥より出でて泥に染まらず」という言葉です。泥沼が汚いほど綺麗な花が咲くという説もあるほど神秘的な蓮は、泥の中でもその花を綺麗に咲かせる特徴から‟泥沼を人間の煩悩として表し、人生の中にある様々な苦悩や悲しみに負けず、清らかに咲き誇る生き方 “という意味で仏教の教えとして使われます。また高貴な考えを示した蓮のイメージは、仏像や絵画など様々な場面で使われています。そういった意味から、仏教発祥の地ともいわれるインドの国花は蓮なのです。

 夏の朝早く蓮華寺池公園に出向いて蓮の花を撮影していると、煩く感じるくらいに蝉が鳴いていました。早朝だと言うのに気温は30度近くになっています。夏の暑さで朦朧とする中で、爆音の蝉の声をBGMに蓮の花と向かい合っていると、蓮が密集する池の中心に黄泉の国の入口が見えたような気がしました。蓮の花と同じく短い命の蝉が精一杯鳴くからなのか、魂が一瞬、身体から離れた様な錯覚を覚えました。

 今回の素敵なシーンは、夏の盛りに咲く‟美しい蓮の花“です。この蓮の花は、花と言う存在を超えて、見る者に語り掛けてくる神秘の力があります。仏様が選ぶ意味が感じられた蓮の花の取材でした!

神秘的な表情を見せる蓮の花
朝日を浴びて咲く蓮の花たち
葉の間から謙虚に花を咲かせる蓮の花
蕾は色濃く、咲くと淡いピンク色となる
朝の光で目覚めた可憐な花
蓮の花の中心部はゴッホも驚く配色
蓮の花の最後の姿
蓮は泥より出て、泥に染まらず
6月~8月に咲く蓮華寺池公園の蓮たち
夏の空と蓮池の競演