西洋文化の入口、キリスト教的芸術を知る、掛川市ステンドグラス美術館~素敵なシーンウォッチング107
ステンドグラスと言えば、まず思い浮かぶのがキリスト教の教会です。その美しさはいつまで見ていても飽きない程に、エレガントで芸術性に富んだ美意識を感じさせます。
今回の素敵なシーンは、日頃、俗世間を徘徊するシーンウォッチャーズの荒ぶれた魂を鎮魂させてくれる、掛川市ステンドグラス美術館です。
ステンドグラスを飾るこの美術館は、19世紀イギリス、ヴィクトリア時代のステンドグラスを中心としたコレクションを常時展示する日本で初めての、そして世界的に見ても大変珍しい美術館です。成り立ちは、掛川市在住・鈴木政昭氏からステンドグラス約70点余り及び美術館建物の寄贈を受け、日頃接する機会の少ない異文化について親しむためにわかりやすい解説を施し、平成27年6月6日に開館しました。
ガラスの起源は、紀元前数千年、古代メソポタミアやエジプトであると言われています。紀元前1500年頃になると様々な製造技術が確立され、ガラスの器の普及が進みますが大量生産は不可能で、生活用品というよりはとても高価な装飾品でした。
紀元4世紀頃、ローマ帝国時代には、21世紀の現在もなお世界中で受け継がれている基本的なガラス製造技法‟吹きガラス技法”という新しい製造技術が発明され、‟ローマン・グラス”と呼ばれる独特のガラス工芸が開花します。またこの頃はじめて、ガラスの窓が誕生しました。
その後、ステンドグラスというものが5世紀のフランスの文献に出てくることとなります。現存する世界で最も古いステンドグラスは、9世紀にドイツのロルシュ修道院跡から発掘された、キリストの頭部と見られているガラス片です。
つまり、板ガラスが作られはじめてすぐにステンドグラスも作れられるようになった訳です。古来ステンドグラスは、キリストの教えを伝える目的で聖書の物語をガラス絵にして教会の窓枠に取り付けられ、文字の読めない人々に教えを広めて行きます。ですので、ステンドグラスは1500年以上もの歴史があり、キリスト教的芸術であると言えるわけです。
因みに、日本にステンドグラスが初めて入ってきたのは、1865年フランスの修道院から贈られた長崎の大浦天主堂の‟十字架のキリスト”だと言われています。日本でのステンドグラスの歴史は浅く、ヨーロッパのキリスト教にまつわるステンドグラスとは異なり、価値の高い装飾品として作られ、公共の建物や個人宅へ設置されていました。
この美術館を訪れて感じたことは、やはり思うよりもステンドクラスは私たち日本の文化との接点は薄く浅いもので、身近に感じられるものでなく、それ故に掛川市ステンドグラス美術館は貴重であり興味深いものなのだということです。最近はステンドグラスの工房や製品を目にすることは少なくありませんが、ここにある歴史的にも価値のある由緒正しきステンドグラスはとても貴重なものなのだと、学がないシーンウォッチャーズでも解る説得力がありました。
教会風の建物の入口に立つと、荘厳な空気感が静かに忍び寄ってきます。一歩踏み入れるとそこからはステンドグラスの世界が開けて、柔らかで繊細な光が織りなす芸術的な空間に胸が躍ります。静かな世界観が無限に広がる空間には、実際には流れていないはずのパイプオルガンの演奏が聴こえてきたかの様な錯覚がありました。美しさを極めたステンドグラスを眺めていると時間の感覚が失われて行きます。それは、ゾーンに入ると言うのか、このステンドグラスの持つ本来の意味に触れることが出来たからなのか、時空を超えた感覚に襲われました。
この美術館、四方に窓が並んでおり、ステンドグラスたちは陽の光の差し込み具合によって変化します。季節によって時間によって表情を変える姿は、まるで生きているような不思議が存在します。
今回の素敵なシーンは、新鮮でありながら細胞の中の太古の感覚が呼び起こされる、ステンドグラスの光が織りなす色彩美の世界です。