永い年月をかけて自然が作った雄大な展望‟鵜山の七曲り“~素敵なシーンウォッチング106

静岡は海、山、そして川と幅広く景勝地が存在していますが、その中でも大井川は、南アルプス南部、静岡県・長野県・山梨県の県境付近にある間ノ岳(あいのだけ)に源を発し、赤石山脈・白根山脈の間を南下し、焼津市大井川と榛原郡吉田町の境界から駿河湾に注ぐ全長168kmの急流大河川で、静岡市、榛原郡川根本町、島田市、藤枝市、焼津市、榛原郡吉田町を跨いでいます。

川名の由来は、古くは湧水のことを‟井”(い)と、用水路や流れのことを‟井水”(せきすい)と呼ぶことから、大井川は‟偉大な水”‟大きな水の流れ”という意味を持つと考えられ、大井川の名は「日本書紀」に既にあり、江戸時代には全国に知れ渡っていたそうです。

さて、今回の取材先ですが、先週の素敵なシーンウォッチング105で紹介した塩郷の吊橋から下流に車を走らせ、大井川の対岸の国道473号線を家山駅に向かってさらに戻ると、山側へ向かう家山林道があります。大井川沿いの道を一旦離れ、山に向かって行けば標高が上がり、やがて大井川を見下ろせる開けた見晴らしの良い朝日段公園(あさひだんこうえん)に辿り付きます。

川根町付近の大井川は4kmに渡り大きく蛇行を繰り返しています。目の前に広がる蛇行した大井川の様子を称えたこの風景が、今回の素敵なシーン‟鵜山の七曲り”(うやまのななまがり)です。

全国的にも大変珍しい自然の造形美で、目を上げると日本一の山、富士山そして日本百名山に選定されている赤石山脈南部の静岡市葵区と長野県飯田市の境界に位置する聖岳(ひじりだけ)が見えます。標高670mの朝日段公園は”鵜山の七曲り”を見下ろすことができ、富士山や南アルプスが望める絶景ポイントなのですが、更に尾根伝いの道を車で登ること10分。そこは朝日段公園を凌ぐ、視界の開けた展望台、七曲スカイパークがあります。この場所は、パラグライダーのテイクオフする知る人ぞ知る絶景観察ポイントなのですが、ここから見る”鵜山の七曲り”は、自然の驚異が手に取るように感じられるリアル地形模型の様なシーンなのでした!

少し詳しく説明しますと、大井川の中流域は、川の流れが大きく蛇行する箇所がところどころに見られます。これは伊豆半島が、フィリピン海プレートの潜り込む力で押し上げられ、南東から押される力が発生したためで、南アルプス系の山々のいくつもの尾根が北東から南西方向に並び、北西に向かって高くなっていくのもこのためだと考えられています。大井川流域の標高は、南アルプスから駿河湾まで南東に向かって低くなっていくのに対し、地層の構造は北東から南西に向かっているため、川の流れが南西に曲げられてしまいます。このようなことが繰り返されていくうちに谷の中の川は川底を掘り下げ曲がりが強くなり、川が蛇行することとなります。山々の尾根が川の流れを遮って蛇行を繰り返す地形は‟穿入蛇行(せんにゅうだこう・よく発達した滑走斜面をもち、蛇行状に曲がりくねった谷の中を流れる河流の状態のこと)と呼ばれ、鵜山の七曲りはこの典型的なもので、静岡県の県指定文化財・天然記念物(地質鉱物)にもなっています。因みに、この付近の大井川は、四国の四万十川とともに、日本を代表する穿入蛇行による曲流河川(きょくりゅうかせん)で、穿入蛇行の各段階の地形が連続して容易に観察できることから優れた地形教材となっているそうです。

今回の素敵なシーンは、七曲スカイパークから見た、永い年月をかけて自然が作った雄大な展望‟鵜山の七曲り“です。

大井川の中流域、川の流れが大きく蛇行する‟鵜山の七曲り”
大井川を見下ろせる開けた見晴らしの良い朝日段公園
はるか遠くの南アルプス山景が見渡せます
林道ツーリングで訪れるバイカーも多い様です
県指定文化財・天然記念物としっかり書かれていました!
風雪にさらされて貫録いっぱいの案内板
朝日段公園を凌ぐ、視界の開けた展望台、七曲スカイパーク
パラグライダーのテイクオフ・ポイント
取材日は風がありましたが、パラグライダーの姿はありませんでした
鳥の目になってこそ、この大自然の驚異が分かります