DESSERT MUSIC #51
「Arc of a Diver」Steve Winwood ( 3/22オンエア)
10代でスペンサー・デイヴィス・グループのヴォーカリストとしてデビューしたスティーヴ・ウィンウッドは、‟栴檀は双葉より芳しい“という言葉がぴったりの優れたシンガー&マルチプレイヤーです。ブラック・ミュージックに影響を受けたR&B感覚に溢れた彼のヴォーカルは、10代のイギリス人のものとはとても思えないほどディープでホットでした。
1948年、イギリスのバーミンガム郊外グレート・バーに生まれたスティーヴ・ウィンウッドは、少年時代からピアノを習うかたわら、10代前半から既に地元のクラブで歌っていたそうです。それは3歳年上の兄と共に50年代のアメリカのR&Rに親しんでいたことがきっかけで、兄の発言によると当時のスティーヴはレイ・チャールズが大好きで、変声期の頃レイ・チャールズのまねをして歌っていたため、変声期が終わった頃にはスティーヴの声は黒っぽい感覚を備えるようになったのだと言います。また本人が語ったところによると、一番のお気に入りアーティストはリトル・リチャードで、それ故ゴスペルからの影響も強いそうです。その後、スペンサー・デイヴィスのグループに加入、1964年にスペンサー・デイヴィス・グループのヴォーカリストとしてレコード・デビューを果しました。
僕がスティーヴ・ウィンウッドを知ったのは、エリック・クラプトン、ジンジャー・ベイカーらと作ったスーパー・グループ、ブラインド・フェイスです。短い活動でしたが、インパクトは絶大で「プレゼンス・オブ・ザ・ロード」は、ロック史に残る名曲です。恥ずかしながら、高校生だった当時、最初この曲のヴォーカルが、エリック・クラプトン(デレク・アンド・ザ・ドミノスやソロに転じてからはクラプトン自身が歌っていますが)だとばかり思っていて、カッコいいなーと感動しまくっていたのですが、ある日よく聴くと声が違うぞ!と気が付きます!そうなのです、この曲はスティーヴ・ウィンウッドが歌っていたのです。しかもオルガンを弾きながら歌うというスタイルは、正しくゴスペルなのですね!
スペンサー・デイヴィス・グループ脱退後、スティーヴは、デイヴ・メイスンら友人ミュージシャンとトラフィックを結成。しかし、第一期トラフィックを解散してブラインド・フェイスに参加しますが、およそ1年で解散しトラフィックを再結成します。その後1977年からはソロ・アーティストとして現在に至っています。
さて、今回チョイスした「アーク・オブ・ア・ダイバー」は、スティーヴが1980年に発表したセカンドスタジオ・アルバム。80年代のUKらしいシンセサイザーを使ったエレクトリック・サウンドが目立った仕上がりとなっていますが、それでもスティーヴの隠しきれないブラック・ミュージックへのオマージュがウォーカルの根底に流れています。有り余る才能と奥深い表現力は、彼が一般的に評価されているマルチ・アーティストとしてよりも、僕はヴォーカリストしての方に軍配を上げます。それは、どんな音楽ジャンルを歌い、演奏しても、ブラック・ミュージックやR&Bのフィーリングを充分に吸収した独自のフィーリングが伺えるからです。
さて、なぜ“水中楽園AQUARIUM”でこの「アーク・オブ・ア・ダイバー」が浮かんだのか?それは、ハマるというキーワードです。ダイバーとのダブルミーニングでもありますが、スティーヴがブラック・ミュージックの沼にハマったからこそ、この曲が生まれたのだと思います。そしてこのアルバムが持つ浮遊感‟ゆらぎ”を、水槽に囲まれた異次元空間で感じたからです。
疲れた時に聴きたい音楽は人それぞれですが、このアルバムはある程度緩くて明るすぎない、深く潜れば潜るほど光が届かない海のようにディープな味わいも盛り込まれていて、疲れた身体を頃合いよくほぐしてくれます。
今回のデザート・ミュージックは、スティーヴ・ウィンウッドの「アーク・オブ・ア・ダイバー」です。