クリアーな異次元空間に泳ぐ‟美しい金魚たち” 素敵なシーンウォッチング FILE 51
物心ついた頃から我が家は、犬と猫とカナリアを飼っていたので、生き物を飼育するという特別な意識はさほどありませんでした。田舎だったので、犬は番犬として、猫はネズミ対策として、ほとんどの家が飼っていたように思います。今のようなペットブームではなく、必要に応じて家畜感覚で飼われていました。それでも、ちょっと気の利いたお家では、アメリカのテレビ・ドラマで登場するコリーやシャム・ネコといったペットと呼ぶにふさわしい珍しい種類の犬や猫がいて、子供心に自分でペットを飼う時はおしゃれな生き物飼いたいなと思っていました。
それから小学校の3,4年生になった頃でしょうか、ついに自分のペットが出来たのです。それは、夏祭りの夜店でゲットした3匹の金魚です。今でもなんとなく覚えているのですが、金魚すくいのおじさんに黒い出目金をおまけしてもらったことがうれしくて、金魚鉢で飼い始めました。三つ子の魂百までという諺があるように、それから途切れることもありましたが、家には水槽があり、今はグッピーを飼育しています。
さて、今回の素敵なシーンは、芸術的な金魚の世界が味わえる“水中楽園AQUARIUM”です。ティピカル・タイプの水族館ではなく、和のデザインが活かされた幻想的な空間におよそ200種4,500匹の金魚を展示されていて、非日常を感じる事が出来ます。
金魚の歴史は古く諸説ありますが、1700年ほど前に中国の野生のフナの仲間から突然変異で現れた、体色の赤いヒブナが始まりとされています。また宋の時代にはなんと皇帝が新種の金魚の生み出しに没頭していたという話しもあるほどで、我が国には文亀2年(1502年)、室町時代中頃、中国から渡来したというのが定説です。その頃の金魚は、今で言う‟和金“に近い格好の金魚だったようです。また中国の古い時代には金魚は池で飼育されていましたが、日本に伝わる頃には陶製の水鉢で広く楽しまれるようになっていたそうです。
この水中楽園の担当で金魚に関するオーソリティーの後藤さん曰く、金魚の観賞方法が上から見るというのはこの頃の名残で、ガラスの水槽が作られてからは横からの鑑賞に移っていったそうです。また、輸入された当初は特権階級だけが楽しめる贅沢品でしたが、平和になった江戸の世で養殖技術が発展、普及し現在に続いています。
金魚たちが一番美しく見える様に計算された展示方法は、数々のこだわりに満ちています。中でも一番のインパクトは、輪島塗の大盃に入れられた金魚たち。おおよそ2年の歳月をかけて作られたこの器は1升瓶100本分がはいる容量で、そこに正に日本の金魚というイメージを持つ、頭に日の丸をあしらった丹頂鶴を連想させる清楚なイメージの‟丹頂“が群れで泳ぐ姿は、伊勢神宮の五十鈴川の鯉に勝るとも劣らない絶景だと感じました。
この水中楽園の魅力は、金魚たちと見学者の関係が間近にあること。金魚たちを上から観賞する為、ガラスやアクリル板が設置されていません。普通、水族館は巨大で魚の種類やスケール感を競う傾向にありますが、水中楽園は出来るだけ魚と人の距離を感じさせない、ともすればスタジオジブリの長編アニメーション映画『崖の上のポニョ』の主人公ポニョの様に、魚と人が恋をしているようなそんな隔たりがない世界を目指しているように感じました。また、この水中楽園には珍しい金魚の展示だけでなく、施設内の順路の最終地点には図書スペースが設けられていることです。水槽が並べられた合間にソファーや椅子が置かれていて、そこでくつろぎながら好きな本を選んで、時間の許す限り至福の時を過ごす、まるまるで水の中にいる魚のような感覚に浸たれます。
お魚好きにはたまらない魅力満載の金魚水族館。実はすごい秘密が隠されていたのです。それは、水槽に空気を取り入れるためのエアーポンプ類がない事(そうでない水槽もあります)。また水を浄化するフィルターもないのでその秘密を伺うと「酸素が高濃度で溶け込んだ水を開発しました。この水によって金魚たちは水槽で自由を満喫できるのです」との事。この魔法の水によって金魚たちもそうですが、実は見学する私たちが一番の恩恵を受けているのだと思います。それは、金魚の世界がよりクリアーに見えることで、水中という別世界を特別に意識しなくてすむからです。
今回の素敵なシーンは、クリアーな水の世界の金魚たちです。
以下、アクアリウムの後藤さんに好きな金魚ベスト3を紹介していただきました!