春を告げる藤と富士との美しき競演 ~素敵なシーンウォッチング FILE 57~
春の到来を告げる藤の花言葉は‟歓迎“です。春と言えば入学や進級という出会いの時でもあり、季節にぴったり合った花言葉なのです。藤の花言葉には他にも、‟忠実”や‟決して離れない”というロマンチックなものがありますが、これは藤の木が蔓になっていることから、地面にしっかり根をおろす木であり、時が経っても変わることがないことからつけられているそうです。
藤の花言葉‟歓迎“の由来には、ハンブルな日本人の理想の姿がこめられていて、‟垂れるほど人が見上げる藤の花“と詠まれた句があります。この句は、藤棚を見に訪れる人々を歓迎して、藤の花がおじきをしている様子を表したもので、取材に訪れた4月後半の晴れた日は正しく、この句のような穏やかな雰囲気がありました。
今回の素敵なシーンは、富士宮市にある日蓮正宗発祥の寺として知られる‟下之坊“の境内に咲く藤の花です。下之坊は日興により開山、山号は大日蓮華山となり、後に、日蓮正宗の総本山大石寺が創建されると、大石寺が‟上の御坊”と呼ばれた一方で、‟下の御坊“と呼ばれるようになったことが名前の由来となっているそうです。
下之坊の藤の一番の魅力は、藤の花越しに見る富士山とのコラボレーションにあります。この日、雲はあったものの風が少しあったことから富士山はしっかりと姿を現して、‟藤と富士“の見事な競演が訪れた人たちを魅了していました。また駐車場から本堂周辺まで続く総延長400mの藤棚は、木漏れ日とのコントラストでこれから訪れる草木香る季節を予感させる風情がありました。
藤は、風にそよぐやわらかな出で立ちと近くに寄るとスィーツを彷彿させる甘い香りが魅力です。そして長寿で、藤の薄い青紫色が高貴な色とされてきた事や、着物の女性をイメージさせる繊細さと気品さ合わせ持った花として、春を告げる季節のランドマークの様な存在として日本人に愛されてきました。コロナ禍の中で霊峰をバックに咲く藤を見ていると、頼もしくもありまた切なくもある、春の到来だと感じました。
日蓮正宗 下之坊(しものぼう)
静岡県富士宮市下条2021