SDGsで育て上げる虹鱒の最高傑作が味わえる白糸滝養魚場~素敵なシーンウォッチング87
世界に冠たる富士山。この山の恵みは多岐に渡り、その姿の美しさは言うまでもなく、山の木々が作り出す澄んだ空気や火山であったことによる地熱や温泉の恵み、そして忘れてはならないのが天然水です。年間20億tといわれる富士に降る雨と雪は、この地に数えきれないほどの恩恵を生み出しています。
今回、素敵なシーンウォッチャーズが取材に向かったのは、富士山の湧水が滝となって流れ出る白糸の滝の源流と同じく、富士山西麓の湧水群が流れる込む一級河川・半野川で虹鱒の養殖を行なっている白糸滝養魚場です。
思わず唱歌「ふるさと」を口ずさみたくなる風景で、木々の出す清々しい空気を吸いながら辿り着いたのは、水量豊かな透き通る湧水が流れる森の中の清流。その川を利用して行われているのは、虹鱒の養殖と水力発電。牧歌的な風景の中に小さなカフェが併設された養魚場は、正に今、世界中の企業が推し進めているSDGs(2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標)があっけらかんと行われていたのでした。
白糸滝養魚場の秋山徳浩代表にお話を伺うと「鍼灸師を目指していた学生時代に休みを利用して先輩のいるオーストラリアに行って、出来るならここに移住したいなと考えていたのですが、移住を断念して卒業を機に富士で本格的に治療院を開いたのです。しかし紆余曲折あって、1年後に治療院を締めて父の養魚場を継ぐことになったのです。ですが昔ながらの養殖ではやっていけず、また莫大な借金もあり、加えて漁業組合も相談に乗ってくれない行き止まり状態になってしまったのです」と秋山代表、一度は匙を投げかけたのですが、その時手付かずの養魚場では、富士の清流の恵みによって虹鱒が今まで見たことのない大きさに育っていたのでした。「災い転じて福となすというのでしょうか、どうしたものかとにっちもさっちも状態になっていた時に治療院時代の人脈から水産業者の方を紹介され、この見事に育った虹鱒に名前を付けて売り出そうという話になったのです」と今回の主役、その名も‟フジヤマレインボー桜咲鱒(サクラサキマス)”が浮かび上がるのです。
普通、虹鱒は30~40センチですが、ここで育てられているフジヤマレインボー桜咲鱒は、倍以上の大きさがあり3K~4Kの重さで、一見すると鮭かスズキの様な大型魚の様相をしています。「虹鱒の刺身の美味しさを多くの人に知ってもらい、その美味しさに気づいてもらいたいということで、大型の虹鱒育成に取り組んだのです。その結果、この恵まれた地での魚に無理をさせない長期育成というやり方に辿りついたのです」と秋山代表の不屈の精神と人のつながりを大切にする人柄が生んだ、奇跡の虹鱒・フジヤマレインボー桜咲鱒が生まれたのです。因みにこの虹鱒のネーミング、秋山代表が名付け親で、知らないと競走馬かな?と勘違いしそうなインパクトがありますが、実際に魚を見ると納得する迫力と美しさであり、また食べると川魚特有の臭みが一切なくその美味しさに驚かされるのです。
現在、この虹鱒は、有名料亭・旅館に下ろされている他、養魚場に併設されている‟白糸滝トラストカフェ”で味わえます。鱒料理のメニューはもちろん、お刺身や虹鱒のイクラなどの持ち帰りも出来るので、シーンウォチャーズは迷わずお土産を購入したのでした!
今回の取材で心に残ったことは、秋山代表の飾らない人柄とファイトで成し得たフジヤマレインボー桜咲鱒の育成成功物語ですが、実はもう一つあるのです。それは、この白糸滝養魚場に流れ込む半野川を利用した小水力発電システムです。令和2年に完成した水力発電は毎秒1.1tが流れ込み、売電して経費を生み出しているのです。
脱炭素社会が謳われて久しいですが、本気で未来について考えている日本の政治家はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。先日、英グラスゴーで開催されたCOP26。炭素排出量を2050年までにゼロにするということなのですが、実際に目の前でこうして自然の恵みをうまく利用して経営と社会貢献を両立する取り組みこそが、SDGsの真の姿なのではないのかと感じました。
今回の素敵なシーンは、富士山の恵みで作られたアイデア溢れる養魚場での成功物語です!