DESSERT MUSIC #32

「No Woman, No Cry」Bob Marley  (11/ 9 オンエア)

当時、この曲がラジオから流れている時に、この楽曲がレゲエ・ミュージックなのか、それともレゲエっぽく仕上げられたポップ・ナンバーなのかという話をパーソナリティーが熱く語っていたことを今でも時々想い出します。それは、音楽雑誌の記事を読みふける高校生だった僕のヒーロー、エリック・クラプトンの「アイ・ショット・ザ・シェリフ」のオリジナル曲がボブ・マーリーの曲だったことで、この話に俄然興味が湧いたからです。

レゲエという言葉が日本で市民権を持つ前に、ボブ・マーリーの存在は世界中にすでに広まっていました。それからしばらくしてレゲエ・ミュージックがラジオで頻繁に流れるようになり、ジャマイカについての様々な情報が伝えられるようになる中、一冊の本が出版されます。

「レゲエ・ブラッドライン 」~ 第三世界ジャマイカ、その音楽、風土、文化、時代の変遷~と題されたこの本で、レゲエ・ミュージックのことはもちろん、ロックステディ、スカ、アフリカ回帰運動ラスタファリズムなど教科書には載っていなかった新しい世界を知ることになります。そして彼の歌う「ノーウーマン・ノークライ」の意味を理解するのです。

1974年のアルバム『Natty Dread』に収録されたスタジオ録音の「ノーウーマン・ノークライ」は、ドラムマシンがリズムを刻むレゲエのジャンルでは革新的なナンバーで、「すばらしい友達を持ちすばらしい友達を失った、でも過去を忘れてはいけない、涙を拭いてマイ・ダーリン、そして女の人達、泣かないでこれからはきっと全部うまく行くさ」と決して過激にならず淡々と詩が語られるシンプルなナンバーですが、それが余計に心に響くのです。貧しいジャマイカの人たちの苦労と歴史を世界に向けて歌うボブ・マーリーの存在は、それまで僕が知っていたロック・ミュージシャンと一線を画す存在感に溢れていました。

今回のデザート・ミュージックに選んだ「ノーウーマン・ノークライ」は、あきらめの歌ではなく、苦難に遭遇しても前に向いて歩いて行こうとする不屈の魂を感じさせるナンバーで、夜泣き石も同じく後世に悲しい出来事を伝える存在でありながらも、実はその魂は人々の優しさ、救いを結びつけるきっかけとなっている物語なのかも知れないと考えたからです。様々な言伝えは、後世の人々が道を踏み外さないようにサポートしてくれる‟アンセム“(元々教会音楽の聖歌や賛美歌のことを表し、応援歌やお祝いの歌)なのかもしれません。