DESSERT MUSIC #52

「Tiny Bubbles」Don・Ho ( 3/29オンエア)

南に向いたラナイで、海を見ながら潮風に吹かれビールを飲む瞬間は何物にも代えがたい至福の時です。ハワイで飲むビールは最高に美味しいです。それは、年間平均気温が18℃で湿度も高くないハワイの気候がビールを飲むのに最適だからですが、ハワイはそれだけでなく何をするにも心地よい場所だからです。加えてハワイには人をゆったりさせる様々な要素が至る所にあり、開放的で優しさを感じさせてくれる島の気質がハワイアン・カルチャーの様々な面で見受けられるから、尚更ハワイで飲むビールは最高なのです。

ハワイアン・カルチャーの象徴は、フラでありサーフィン、アロハシャツ、ロミロミやハワイアン・キルトなど多岐に渡りますが、その中でもハワイアン・ミュージックは世界的に知られるメジャーなコンテンツです。

ハワイアン・ミュージックは、アメリカ文化が流入する前の時代とその後の音楽にジャンル分けされています。流入後の音楽をハワイアン・コンテンポラリー・ミュージックと呼びますが、この音楽の魅力は、流入前のトラディショナル・ハワイアンにポップスのフレイバーが入り込んだミクスチャーな魅力です。

春が訪れて暖かくなってきた季節に取材をした‟御殿場高原ビール“で浮かんだ音楽は、‟ミスター・タイニーバブルス”と呼ばれたハワイ・エンタテイメント界の立役者、ドン・ホーの代表曲「タイニー・バブルス」です。彼は1930年ホノルルのカカアコで生まれ、ハワイの名門校プナホウ高校(オバマ元大統領もこの高校出身)とメインランドの大学ではフットボールの選手として活躍。大学卒業後は空軍に入り輸送機のパイロットとしてハワイと日本を行き来していたそうです。音楽を始めたのは退役して自宅に戻り、両親の経営していたバーで仲間とバンドを組んでからです。

ドンは「アイル・リメンバー・ユー」「ワン・パドル・トゥー・パドル」「デイズ・オブ・マイ・ユース」などのヒットで知られるクイ・リーの作品を積極的に歌い、地元ハワイで人気を獲得していきます。ワイキキのインターナショナル・マーケット・プレイスにあった人気ライブ・バー、デューク・カハナモクに長期間出演する一方、ハリウッドのココナッツグローブやラス・ヴェガスのフラミンゴ・ホテル等にも出演するようになり、西海岸でも人気が出るとABC-TVで「ドン・ホー・ショウ」がスタートしメインランドの人たちにも絶大な人気を博します。そして決めの一手となったのが、1966年にリリースされた名曲「タイニー・バブルス」です。

「タイニー・バブルス」と言うと大体の人は、1980年にサザンオールスターズがリリースした「タイニイ・バブルス」(タイトルのカタカナ表記は違いますが英語綴りは同じ“Tiny Bubbles”)を思い浮かべますが、本家本元はこちらです。

僕の勝手な想像ですが、桑田さんは絶対ドン・ホーを知っていて、同じタイトルの曲にしたのだと思います。それは、ドン・ホーを日本のアーティストに例えるなら、湘南育ちの桑田さんの心のヒーローである加山雄三さんになるからです。そしてもう一点は、“Tiny Bubbles”は直訳すると“小さな泡”ですが、ピジン・イングリッシュ(英語と現地の言語が混合した言語)では、“かわいいおっぱい”という意味もあり、学校の先生に意味を尋ねても決して教えてくれないであろうアルバム・タイトル「マンピーのG☆SPOT」(マンピーのジー・スポット)やシングル「エロティカ・セブン」、はたまたコンサートでローションにまみれるウナギのパフォーマンス(2006年『夢人島』)、スピード製の競泳水着を着用してお尻を食い込ませたダンサー(2008年『真夏の大感謝祭』)、極め付きは2013年の『灼熱のマンピー!!』で性器を連想させるマツタケとアワビの張りぼての神輿を合体させるなど、オブラートに包んだ(そうでないときも多数)体制批判が大好きな桑田さんらしい、ドン・ホーへのオマージュだと僕は受け止めています!

話がえらく違った方向に飛んでしまいましたが、要するに日本最高のポップ・バンドにリスペクトされるドン・ホー、そして名曲「タイニー・バブルス」の存在感を説明したかったのです。

1964年、東京オリンピックが開催された年、日本人の海外渡航自由化が開始されて観光目的のパスポートが発行されました。その時JTBが主催したハワイ9日間の旅行代金は、36万4000円(当時の大卒初任給1万9100円の19倍)という金額で、現在の物価に換算するとなんと400万円と目が飛び出るほど高額だったのです。1人年1回、海外持ち出し500ドルまでの制限付きの海外旅行でしたが、それでも1964年の出国者数は12万7749人だったそうです。

今から55年前の1966年にリリースされてハワイだけでなく本国メインランド、そして日本でもヒットした「タイニー・バブルス」。古のハワイでこの曲を聴きながら、プリモ・ビールを呑んだゴージャスなお金持ちの気持ちを思い浮かべて、地ビールレストラン、グランテーブルで‟御殿場高原ビール・コシヒカリ・ラガー“に舌鼓を打ちました!

今回のデザート・ミュージックは、ハワイの加山雄三、ドン・ホーの「タイニー・バブルス」です。