たかが芋、されど芋 素敵なシーンウォッチング FILE 47
人の欲望は限りないものです。僕も例に漏れず、何かにつけ強欲で、浅ましい人間性の塊の様な性格をしています。特別に美味しいものを食べたい、高価な珍しいものを食べたい、お腹が空いた時に腹いっぱい食べたい!まるで『千と千尋の神隠し』で豚になってしまうお父さんとお母さんのようなあり様です。
しかし、そんな旺盛な食欲も歳を重ねるごとに、いつしかお腹いっぱい沢山食べるより、自分が美味しいと思うものを適量、食したいという様になりました。それは、ある程度、世の中の食べ物についての知識が付き、ある程度の美味しい料理を知ることで、心の満足が得られたからかもしれません。もちろん、世界には素晴らしい食材や調理法でこの世のものとは考えられない程に美味しい料理が存在します。ですが、それらを食すことが幸せなのか?と尋ねられると、答えはNOです。なぜなら、食べるということはその食べ物、料理の味だけなく、どこで誰と食べるのかという周りの環境や自身の体調や腹具合が密に関係してくるからです。話が長くなってしまいましたが、食べたいものを食べたい時に食べられること、そして出来るだけシンプルに素材が活かされた身体に良い食べ物を食せることが、幸せなのだと感じています。
さて、今回の素敵なシーンは、何気ないシンプルな味わいが感動を呼ぶ‟干し芋“です。まず、干し芋についてお話ししましょう。干し芋の発祥は静岡県御前崎市で、1824年に栗林庄蔵が煮切干での製造に成功したことが始まりだと言われています。その後、1892年頃に静岡県の大庭林蔵と稲垣甚七が蒸切干の製法を実用化したことで、保存食として全国各地に広まったそうです。
実はこの干し芋には多くの効能があり、健康食であるという側面が長年愛され続けている理由でもあるのです。まず、繊維質が多いことから便秘予防・改善、そしてカリウムが豊富に含まれていることから身体の外に水分を排出してくれて、高血圧予防とむくみ改善効果があります。その他、疲労回復効果、貧血予防、風邪予防、美肌・若返り、冷え性対策、そして、食物繊維がコレステロールの吸収を抑制する働きがあり、加えてアルカリ食品である干し芋は、痛風の原因になるプリン体を排出してくれる働きをします。と言う様に、見事なまでの優等生食品なのです。
今回、取材をさせていただいた牧之原市白井にある干し芋の製造販売店‟まるととづか“の代表取締役の戸塚秀昭社長は、「拘われば拘るごとに製造は難しくなります。しかし、その手間を惜しまず、天日乾燥によって仕上げることでより一層干し芋が美味しくなるのです」とこだわりの製法を貫くことによって、干し芋発祥の地の名に恥じない究極の干し芋が作られています。
今の時代、おしゃれなお菓子店が都会、田舎に限らず多数出店していて、パティシエ、パティシエールなるデザートを作る菓子職人が様々な調味料、そして調理法を使い見事な腕を披露しています。そんなインスタ映えするケーキやクッキーも魅力的ですが、見事なまでに素材だけで勝負する干し芋の潔さは、甘味界、唯一無二のスーパースターだと言えるでしょう!芋を蒸して天日干しするだけ。ただそれだけで、あの奥深い甘みの向こう側にある桃源郷が作られているのです。もちろん、とてつもない人力での作業が加えられていることは言うまでもありませんが、砂糖どころか、太陽の恵みのみで甘さを引き出すというマジック。
今回の素敵なシーンは、シンプル過ぎる伝統和菓子、干し芋の世界です。
有限会社まるととづか
公式ウェブサイト
https://maruto-imo.co.jp