心を満載して走る天浜線の魅力! 素敵なシーンウォッチング FILE37
今回の素敵なシーンは、かつてFILE30で紹介させてもらいました天浜線の話題です。通称:天浜線、正式名称は第三セクター天竜浜名湖鉄道と言い、掛川市から湖西市を結ぶローカル鉄道です。
今の時代、人が減り高齢社会となり経済の鈍化で息詰まる日本。特に今年はコロナ禍で、どこの業種も赤字のオンパレードは至極当然のことです。しかし、そんなことばかり言って嘆いていては始まりません。この「ラジオで見る静岡」も静岡各地を奔走しています。それでも日々、クォリティーの追及には手を抜いていない、いや抜くことは許されないと心して取材に駆け回っています。
天浜線との出会いは、夏の終わりの頃、取材アポがある行楽地に向けて朝早くから車を走らせていると、田んぼの真ん中を走るのどかでかつ健気な雰囲気を醸し出している一両編成の鉄道車両に出くわします。どこに行くのか、列車の後を追いかけると行く手にあった駅が無人駅の‟遠江一宮駅“(とうとうみいちのみや)でした。その無人駅構内には、とんでもなく美味しい蕎麦を出す‟百々や”という隠れた名店がありました。無人駅に名店?!その組み合わせの不思議さに興味を持ったことがきっかけで、実はその頃、天浜線では僕たちの想像を超えた企画で世間を騒がせていたのです!
「鉄印」、初めて聞いたこの単語。今では鉄道ファンを中心に知られる、神社や寺院で、希望した参拝者へ押印する御朱印の鉄道版のようなものです。鉄印帳を購入して、各鉄道会社の指定窓口で乗車券の提示と記帳料を支払うと、各社のオリジナル「鉄印」がもらえる第三セクター鉄道等協議会に加盟する鉄道会社40社と旅行読売出版社が連携した企画で、今年の7月10日からスタートしていて、実はこの天浜線の鉄印は全国で一番人気になっていたのです。
今回の素敵なシーンウォッチングはこの人気の秘密を知りたくて、天浜線本社がある国の登録有形文化財に登録された転車台や扇形車庫・運転指令室等の施設が構内に立ち並ぶ、昭和初期の雰囲気満載の天竜二俣駅に伺いました。出迎えていただいたのは、天竜浜名湖鉄道株式会社営業課長 伊藤典生さん、そして企ての張本人、長谷川寛彦社長。朝一番の早い時間にかかわらず、この日も鉄印を求めて遠くから鉄道ファンが来られていて、長谷川社長は大忙し!なぜ、社長が走りまくっているのか?鉄道会社だからかとアホな冗談はさておき、その謎はこの天浜線の鉄印が全国で一番人気となっている理由と共に、すぐに分かりました!
小学生の頃に書道を始め、県書道連盟の師範資格を持つ達筆の駅長が肝!しかも、あらゆる遊びに精通した強者で、バイク、車、音楽、オーディオ等々多才な趣味人だったのです。多忙な職務の中で時間を割いていただいてお話をお伺いすると、「大変は大変なんだけれど、お客さんが喜んでくれることがうれしくて、時間の許す限り対応しています。それと、近くからじゃなくて全国からわざわざ静岡の浜松市天竜区まで来て下さるお客さんを無下にはできないですからね」とこの日も窓口で鉄印を求めるお客さんに直接対応して、軽妙な会話をしながら目の前で墨書されていました。実は、40社ある鉄道の中で、天浜線の鉄印だけが唯一駅長自ら筆を振るっているという事なのです。ですから、通常の業務に加えて、このアイドルの握手サイン会のような作業があるわけです。
構内の売店には、鉄印帳などの様々なグッズが並べられていて、ノスタルジックな駅舎とはちぐはぐな印象を受けたのですが、旧国鉄転換型の第三セクター鉄道のほとんどが赤字経営。それの赤字を少しでも減らすために様々な企画を立てているのです。そのことを知ってか知らずか、心優しい鉄道ファンは鉄印帳を鞄に忍ばせ全国の赤字路線の旅をするのでしょう。
子供の頃、友達に無理を言って譲ってもらったジャイアント馬場のサイン色紙もどこかに忘れてしまうようなずぼらな僕ですが、長谷川駅長が目の前で筆を振るうこの鉄印は天浜線の乗車記念にほしいなーと思ったアイテムでした!
取材での楽しみは、ご当地名物を食することとそれ以上に重要なのは人との出会いです!これまでもたくさんの場所に赴きましたが、記憶に残る順番は美しい風光明媚な場所でも絶品名物料理でもなく、またアクシデントに見舞われて苦労した苦い思い出ではなく、お世話になった人たちの顔なのです。
今回の「ラジオで見る静岡」は、天浜線名物社長(現在は退職)との出会いが素敵なシーンとなりました。
PS 長谷川社長、お勤めご苦労様でした!