DESSERT MUSIC #30

「Restless Nights」Karla Bonoff  (10/ 26 オンエア)

カーラ・ボノフは、何よりもその声が良いのです。知的でありながら大衆的な好感度がある、正しくポピュラーなシンガーであり、ソングライターなのです。1979年に発売された彼女のセカンド・アルバム「レストレス・ナイト」(邦題:ささやく夜)は、ダニー・コーチマー、デヴィッド・リンドレー、エド・ブラック、ジェイムス・テイラー、J.D.サウザー、ドン・ヘンリー、アンドリュー・ゴールドらが参加したAOR時代の最高傑作のひとつだと言っても過言でないアルバムです。

今回、デザート・ミュージックにこの曲を選んだ理由は、ジャケット写真。列車の個室に座り、ブーツのひもを直しているカーラのサイドショットを捉えた写真は、これから長旅になるのだろうか少し寂しげな表情も伺えるもので、窓の後ろには蒸気機関車のスティームが立ち昇るアメリカの開拓時代を彷彿させます。

タイトルになったアルバム・タイトル・チューン「レストレス・ナイト」は、失ったボーイフレンドのことを忍ぶ気持ちで休まらない夜(レストレスナイト)になった心境を歌ったナンバー。当時28歳だったカーラがシルキーな歌声でしっとりと歌うロストラブ・ソングは、ティーンエイジャーだった僕の、その後の女性アーティストを選ぶ基準に多大な影響を与えたことを今でも記憶しています。

今回の素敵なシーンは、1日の乗降客は50人から70人というローカル線を絵に描いたような遠江一宮駅。残念ながら、朝の遠江一宮駅にはカーラのジェケットの様なドラマティックな女性はいませんでしたが、それでもこの駅から旅立っていった人たちはそれぞれのドラマを背負い、それぞれの人生を歩んでいます。

駅には数々のドラマが潜んでいます。竹内まりあの「駅」、大瀧詠一「さらばシベリア鉄道」、中島みゆき「ホームにて」…まだまだたくさんの駅を舞台にした歌が生まれています。

列車が駅につき、そしてホームを出て行く。ただそれだけのことですが、無人駅のホームで去って行く列車を見ていて心が動くのはどうしてなのだろうと自問する自分がいました。人生は人との出会いと別れの繰り返しです。線路は人生で、駅はターニング・ポイントなのかもしれません。このホームに入ってきた列車は、誰か降りてまた別の誰かを乗せて次の駅に運んでくれます。無人のホームで頭を過ったのは、過ぎていった自身の日々のことでした。意外や意外に、カーラ・ボノフの‟気分が休まらない夜“(レストレス・ナイト)を歌った心境と似ているのではと思った次第です。