DESSERT MUSIC #29

「Little Wing」The Jimi Hendrix Experience  (10/ 19 オンエア)

「リトル・ウィング」は、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスが1967年に発表したセカンド・アルバム『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』に収録されたスローテンポのアルペジオで始まるメロディアスなギター・フレーズが印象的な楽曲で、フィードバックしたエフェクトがかけられたヘンドリックスの歌声に鉄琴の一種のグロッケンシュピールの音色が絡む雄大な幻想的バラード。すでにドラック・カルチャーに影響受けていたであろうヘンドリックスが、守護神や理想の女性を想い浮かべて歌詞は書かれています。

今回の「ラジオで見る静岡」のデサート・ミュージックになぜこの曲を選んだのか?それは、露天風呂から見える雄大な山々の自然を見ながら、死ぬまでに一度は行きたいコンサート会場、レッド・ロック野外劇場を連想したから!です。レッド・ロック=赤石=赤石温泉白樺荘…

アメリカの音楽雑誌‟ローリングストーン誌“から“全米ナンバー1の野外劇場”と称されるコロラド州デンバーの「レッド・ロック野外劇場」は、赤い砂岩が生みだした天然のコンサートホール。オペラ歌手やオーケストラからビートルズやU2、ニール・ヤング、コールドプレイ、ジミー・ヘンドリクスまで、超一流の音楽家やアーティストがこの地で演奏しています。数百万年前の地中変動の跡が刻まれた砂岩の壁が南北に反り立つ、岩壁に囲まれた土地にステージを建設したため、卓抜した音響効果に恵まれ、またこの場所の雰囲気が醸し出す神秘性が演奏者、観客に与える影響は計り知れないことから、伝説的な野外コンサート会場として名を馳せているのです。

デンバーの西24 km、標高 1,966mにあるこのコンサート会場は、日常と究極に決別したところに魅力があります。今回のロケで、静岡の一番北はどこなのだろうか?とロケ車を走らせて辿り着いた場所は、山梨県と長野県に挟まれた県境の秘境でした。出発地点の牧之原から3時間半。どちらも秘境です。

すべてが便利優先の時代に、最後まで人の手が介入できないものが時間の感覚だと思います。ドラえもんのどこでもドアやタイムマシーンがあれば話は違ってきますが、それでも人の感覚まではそう簡単にチェンジできないのではないでしょうか。旅をしたり、野山を探索して日常をしばし忘れる。音楽も言ってみれば心の旅です。非日常があるから、日常の存在をより客観的に捉え充実させられるのではないでしょうか。非日常とは、日常的ではない、当たり前ではないこと。「リトル・ウィング」小さな翼は、非日常を歌った唄だったのかも知れないなと、赤石温泉の露天風呂から見える山々の雄大な景色を見ながら、彼方デンバーのレッド・ロック野外劇場で白いストラット・キャスターをかき鳴らす古のヘンドリックスの勇姿を脳裏に描いていました。